BLAME!

原作はほぼリアルタイムで読んでいて、未だにこれを超える作品にはそうそう出会うことがない。「伝説的マンガ」などと言われるが、そんな最大限の賛辞も大袈裟ではないと思うくらいの名作だ。

何千何万階層もある広大な空間(設定では(建設者の無作為な増築によって)木星軌道を超えるほど成長していたはず)を、探索者キリイが無限の旅を続ける。終わりのない廃墟・巨大建築の中を。その途中、文明の痕跡や、今でも独自の生活を続ける集落に出会う——。この雰囲気は本当にエモい。唯一無二と言っていいほどの叙情性がある。

キリイの探し求める“ネット端末遺伝子”。大き過ぎる望みだ。しかしそれさえあれば世界の混沌状態に終止符を打つことができる。これこそが無限の旅を続ける動機であり、言うなればこの作品におけるマクガフィンである。作品の構成上、最終的にそこに辿り着くかどうかは問題じゃない、とも言えるだろう。果てしない探索の旅の、一歩一歩の過程にこそ、この作品の精髄がある。

誤解を恐れずに言えば、これは男性の精神世界そのものだと思う。時々誰かに出会ったり、また別れたりしながら、当て所もない旅を続ける。大いなる目標に向かって、孤独な旅を旅する。この太古の原型的なモチーフを、ハードSFとして未来の中に映し出している。

別にSFが特に好きという訳ではないので、俺にとってはこれがSFである必要はなかったが、しかしこの独特の雰囲気を成立させる為にはSFである必要があったと思う。

 

今回BLAME!が映像化されたので、これを見るためにNETFLIX登録した。

その感想を適当に書く。

 

CGアニメなんだけど、動きが大きい割にフレームレート低いので見づらいと思った。目で追いづらい。もし手描きでやってたら多分ああいう動かし方はしないんだろう。手描きアニメ数十年のノウハウが活かされてない・という気がする。全体通じて映像的には物凄く高レベルってわけでもない。…しかし最初にキリイが重力子放射線射出装置を撃った時の演出で大満足してしまった。それで全部許した。元は取った、という気分だ。あとは全部オマケでもいい。

キリイ喋るの遅過ぎるし池沼っぽいと思った。正直言って魅力がない…。残念だ。キャラが立ってない。原作のキリイは、クールで顔には出さないけど実は感情に左右されていて人間らしい部分がある、そんな男だ。死にかけのおっさんに「医者が来たぞ」と温かい嘘をつくようなやつだ。おっさんが死んで何を思うのか——。しかしキリイは何も語らない。男だろう。言わなくたって、分かるんだよ。言葉なんて必要ないんだ。そして黙って歩き出し、また旅を続ける。そんな男の背中が、言葉以上のことを語ってるんだぜ。BLAME!というのはそういう作品なんだ。

(声優は詳しくないのだが)シボの声は耳触りが良くて気に入ってしまった。特に最初のゾンビ状態の時。原作読んでる限りではもう少し違う印象だった気がするが、これはこれで悪くなかった。

 

映像化の都合上、ストーリーがちょっとずつ変えられてて、まあそこまで違和感はなかったしそれは別にいいんだけど、悪く言ってしまうと「原作からいくつかモチーフを拝借して繋ぎ合わせただけの間に合わせ映画」という感じだ。製作者の原作への愛というのは、正直俺はあまり感じなかったかな。

今回電基漁師の集団を軸に物語が進んでいく。のだが、そもそも人間の感情に焦点を当てちゃダメだろうと思った。それはBLAME!の魅力じゃない。そういうのは旅の途中に垣間見えるからいいのであって、そこを主軸に据えちゃダメだろう。この辺考えると、そもそも作品の魅力を分かってない気がする。

原作を知る人にとっては、あのBLAME!が映像化された、ということで意味がある。事実そこそこ楽しめたし、まあそんな悪くなかったと思う。ただ一見の人が、予備知識なく見始めてもすごく面白い…という感想にはならないんじゃないかな。と思った。